実力主義の定義
実力主義とは、業務を遂行する能力や仕事の成果を基に従業員の評価を決める考え方です。評価は昇格や昇級の判断材料になるため、年齢や性別、勤続年数などに縛られず、仕事ができる人ほど賃金が上がる仕組みになっています。「成果主義」と同義の言葉として使われます。
日本の企業では長年、年齢や勤続年数などによって賃金や役職が決まる年功序列の評価が主流でしたが、昨今では実力主義を取り入れている企業も増えてきています。実力主義の企業では、能力が高く成果を出している人とそうでない人で賃金に格差が生じるため、年齢が若くても高収入や高評価を得られるチャンスがある一方で、なかなか成果を出せない人にとっては苦しい環境といえるかもしれません。
実力主義とそのほかの評価制度の違い
従業員の評価方法には、実力主義のほかにどのような制度があるのでしょうか。実力主義との違いも含め「年功序列」「能力主義」「職務主義」の3つについてご紹介します。
年功序列
年功序列とは、年齢や勤続年数を重視する評価方法です。勤続年数が長いほど賃金が上がるため、長期勤務を前提として働く従業員が多くなり、定着率の向上につながります。また、経験豊富な従業員が増えていきやすいため、若手社員の育成もスムーズに行えます。
一方、実力主義と違い、能力や仕事の成果が評価につながらないため、従業員のモチベーションや生産性が低下する恐れがあります。また、若手の優秀な従業員が自身の評価に不公平さを感じ、離職してしまうケースも考えられます。
能力主義
能力主義とは、仕事の成果に加え、成果を出すまでの過程や業務にあたる姿勢、これまでの貢献度なども加味して評価する方法です。実力主義と混同されがちですが、スキルや知識、勤続年数などさまざまな要素を考慮して評価が決まるため、実力主義と年功序列の間に位置する考え方といえます。
ただ、評価する項目が多く明確な基準を設けることが難しいため、感覚的な評価になりやすいというデメリットもあります。
職務主義
職務主義とは、役職や仕事内容によって賃金が決まる評価制度です。先述した年功序列と併せて構成されることが多く、年齢や勤続年数に応じて昇進し、昇進することで職務主義により賃金が上がるといったケースが見られます。
役職ごとに賃金を決められるため、企業にとっては人件費を管理しやすいというメリットもあります。しかし、上のポストが空かない限り賃金が上がらないなど、従業員一人ひとりを柔軟に評価するのが難しいというデメリットがあります。
日本企業で実力主義が導入されるようになった背景
先述したように、日本では実力主義の評価制度を取り入れる企業が増えてきています。ここでは、実力主義が広まった背景についてご紹介します。
業績悪化によるコスト削減の必要性
日本では、長年多くの企業が年功序列の評価制度を採用してきました。特に高度経済成長期には、企業が人材の長期定着を目指し、労働者も仕事に安定を求めたため、時代に合った評価制度だったと言えます。
その後、1990年代のバブル崩壊をきっかけに実力主義の導入が進んでいきます。業績が悪化し、コスト削減をする必要がある企業にとって「成果を上げていない従業員に高い給与を支払わなければならない」「勤続年数が長い従業員の人件費が膨大になる」といった問題が、大きな負担になったためです。こうした問題を解決するため、成果を上げた従業員に人件費をあてる合理的な手法として実力主義が注目されるようになりました。
雇用形態の多様化
雇用形態が多様化したことも実力主義が広まりつつある理由の一つです。以前の日本では終身雇用が一般的でしたが、昨今は派遣社員や契約社員など、さまざまな働き方が普及しています。また、定年退職するまで一つの企業に勤務し続けるのではなく、転職してキャリアアップを目指すといった人も増加しています。
年功序列のような、勤続年数や年齢を重視する考え方では従業員を適切に評価することが難しくなってきたため、別の合理的な評価方法として実力主義が導入されるようになったのです。
企業が実力主義を導入するメリット
実力主義を導入することでどのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは、企業が実力主義を導入するメリットについてご紹介します。
従業員のモチベーションアップにつながる
実力主義は、仕事で成果を上げると評価も高まるシステムのため、従業員の仕事へのモチベーションが上がりやすくなります。また、年齢や勤続年数に関係なく実力を判断されることから、従業員一人ひとりが成果を上げるために何をするべきか考えるようになり、自発的な成長を促せます。結果として従業員の業務効率が上がり、会社全体の生産性も高まっていくことが期待できます。
賃金を適正化できる
実力主義は、従業員のそれぞれの成果に応じて賃金を決定します。そのため、目立った成果を上げていない従業員に多額の賃金を支払うことや、活躍している従業員にわずかな賃金しか支払わないといった状況を避けることができます。企業への貢献度に応じて適正に賃金を配分することができるようになり、従業員の高齢化に伴う人件費の増加も防げます。
企業が実力主義を導入するデメリット
実力主義の導入はメリットばかりではありません。ここでは、企業が実力主義を導入した際に考えられるデメリットについてご紹介します。
離職率が高くなる恐れがある
実力主義の下では、従業員は成果を上げなければならないというストレスを感じやすくなります。思うような成果が出ず賃金や役職が下がれば、さらに強いストレスを抱えるようになり、最終的には離職してしまうかもしれません。
努力をしていない従業員ならまだしも、成長意欲が高いにもかかわらず、運悪く成果をあげられていない従業員が離職してしまうのは企業にとって大きな痛手になります。
職種によって評価基準の設定が難しい
実力主義は仕事の成果で評価が決まりますが、すべての職種で成果を定量的に測れるわけではありません。例えば、人事職や総務職、事務職などは仕事の成果が数字に表れにくく、どのような観点で企業への貢献度を評価するべきか考える必要があります。
公正な評価基準を設定できなければ、評価者の主観や裁量に委ねられ、従業員が不公平感を抱くことになりかねません。納得がいかなければモチベーションの低下につながる可能性もあります。
従業員が実力主義の企業で働くメリット
実力主義を導入している企業で働くと、従業員にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。詳しくご紹介します。
成長できる環境に身を置ける
実力主義の職場には、「自分の力を試したい」「年齢に関係なく評価してほしい」という人が集まりやすいです。そのため、経験やスキルのある優秀な人材が多い傾向にあります。また、従業員一人ひとりが成果を上げようとするため、お互いの競争意識も高くなります。こうした環境で働くことは、仕事へのモチベーションやスキルを自然と向上させ、自身の成長につながります。
若手でも責任のある仕事を任せてもらえる
実力主義の企業では、成果さえ残すことができれば早い段階から現場のマネジメントを任せてもらえたり、上位の役職に就いたりすることが可能です。年功序列を採用している企業よりも、若手の従業員が昇進・昇級するチャンスが多くなります。成果次第では大幅なキャリアアップができる可能性もあり、向上心が高い従業員ほどモチベーションが高まる環境といえます。
従業員が実力主義の企業で働くデメリット
実力主義は、従業員にデメリットが生じることもあります。ここでは、考えられるデメリットについてご紹介します。
競争意識の高さによるプレッシャー
実力主義の企業では、常に成果を上げることが求められます。成果を出せなければ降給や降格する可能性もあるため、従業員は常にプレッシャーにさらされ、ストレスを抱えやすくなります。他人と競い合うことが苦手な人にとっては特につらい環境かもしれません。また、思うように成果が上げられない時には、会社にいづらさを感じてしまう可能性もあります。
人間関係に悩みやすい
実力主義の企業では、成果を上げた人が年齢を問わず昇進するため、後輩が上司になったり、先輩が部下になったりする可能性があります。明確な上下関係を構築するのが難しく、「お互いに思っていることを言い合えない」「どのように接したら良いかわからない」といった悩みを抱えることも少なくありません。
また、それぞれの従業員が自身の成果にこだわり、個人プレーに走ってしまう可能性もあります。チームワークの乱れや、一緒に働く人との関係の悪化につながりかねず、場合によっては業務に行き詰まってしまうかもしれません。
実力主義と相性の良い仕事・良くない仕事
実力主義には、相性の良い仕事とそうでない仕事があります。ここでは、それぞれの仕事についてご紹介します。
相性の良い仕事
業界を問わず実力主義と相性が良いのは、営業職とクリエイター職です。営業職は、企業のサービスや商品を売り込み、契約を取り付けるのが主な仕事です。仕事の成果が契約数として数値化されるため評価しやすく、多くの企業で歩合制の報酬制度を導入しています。
また、クリエイター職には動画クリエイターやゲームクリエイター、サウンドクリエイターなどさまざまありますが、どの業種も仕事の成果が作品となって形になります。そのため、実力主義による評価がしやすく、作品のクオリティーがそのまま評価や報酬に直結するケースが多いです。
相性の良くない業種
一方、実力主義と相性が良くないのは、成果を上げることよりも安全で確実な仕事が求められる業界です。運輸・物流業、建設業、サービス業などがこれに該当します。例えば建設業の場合、一年間で受注した仕事の量や売り上げた利益よりも、一件一件の仕事を無事に完了させることの方が重要であり、成果が第一ではありません。
こうした業界では、安定した技術や豊富な経験をもって業務を遂行できる人材が必要になります。そのため、年功序列を導入することで従業員の離職率を下げ、長期育成を図るケースが多いです。
まとめ
ここまで、実力主義の定義や日本で導入が進んだ背景、企業や従業員にとってのメリット・デメリットなどをご紹介しました。実力主義は、成果を上げれば評価をされる一方で、成果を上げなければいけないというプレッシャーが常にあります。やりがいがあると感じる人もいれば、そういった環境が苦手な人もいるでしょう。
企業選びの際には、経営状況や社風をしっかり確認し、自分の実力を十分に発揮できる環境かどうかを判断することが大切です。この記事の内容が、少しでも皆さまの企業選びに役立てば幸いです。